満開桜

僕の下咽頭にある腫瘍は
相変わらず大きな変化は
ないらしく、今回の
手術で予定通り除去
される筈だった。


しかし食道の上の方に
新たによく判らない出来物(?)があり、手術は一旦中止とした
らしい。後から聞いて驚いた。そして出来物は癌らしいとも
医師は言っていた。最初の説明ではそれを取り去るには声帯も
取り去らなくてはならないらしく、そうすると僕は永遠に
声を喪ってしまう事となる。その話を聞いた直後から暫くは
ほとんどパニックに陥っていた。


すぐに造影剤を投与した上でのCT撮影を行ない、その夜また
主治医がやって来た。今度は「どうも判らない、何とも
言えないもの」との事だった。なので早い内にPET検査を
受ける事になった。来週月曜日に予約を取っている。結局
何なのか、どうするのか、どうなるのかはその結果を見て
からの判断となった。医師の見落としではないかと話し合いに
同席した父は怒っていたが、前回のCTでは見つからなかった
らしい。だから、判らない、と。

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退院後、職場に戻った僕はオーナーにこの事を伝えている。
だが、オーナーも一緒に仕事をしている先輩も意見は同じで
「たとえJ-45さんが声をなくしてもこの場所でやって
貰いたい仕事は幾らでもある。知識や経験を生かして欲しい、
ここにいて欲しい。なんとでもフォローするし、逆にこれ
からもっと助けて欲しい位です」 泣かなかったが、心の中
では号泣していた。ただただ感謝だった。いや、感謝なんて
ものではなかった。気持ちが、少しだけ落ち着いた。
相談支援業務の大ベテラン達と共に仕事をさせて貰えて
いるからこその理解と意見だったように思う。落ち着き、
冷静にもなれた。


考えていた。今現在の僕の気持ちである。声を喪う事は
断固拒否する。その結果寿命が縮んでも構わない。好きに
生きたい。幸いな事に僕は独り者である。両親には悪いが、
好きに生きたい。自分の欲望を満たすのではなく、自分の
人生へ問いかけ、人生に対して何が出来るのかを探したい。
ただ、これからどうなるかはまだ判らない。検査結果を
待つしかないだろう。


13年近くこの日記を続けて来たが、これまでで最も暗い話に
なってしまった。でもこうして書き出してみると少しだけ
心が落ち着く。可能性はまだ棄てなくともいいのだろうし。
でも疲れたね、流石にこの数日間は。僕の心に穏やかさは再び
戻って来てくれるのだろうかね。
今日も桜が綺麗だった。明日は近所に花見にでも行くか。
今年の桜を、しっかりと目に焼き付けておきたいのだ。