1998年 北海道放浪


緑と茶の混じった、
何とも言えない色が
目に飛び込んで来る。


それが2人用テントの
余りにも低い天井で
あると気付くのには
さほど時間はかからなかった。寝返りを打つと、すぐそばに転がる
発泡酒の1リットル缶に手が当たり、昨夜の痛飲の記憶が蘇って来る。
暑い。日の出よりかなりの時間が経過しているようだ。モスキートネットを
通して風がそよそよと入り込んでは来るが、所詮は微々たるものである。


やや朦朧とした感覚のままジッパーを上げ、テントの外に這い出る。
予想外に曇天である。どうにもさえない。


岐阜県長良川の河原に野宿した。広々としたなかなか感じの良い場所だ。
あまり綺麗とはいえなさそうではあるが、その長良川の水で顔を洗ってみる。
悪くない。これからこの川を遡る訳か。


R156を北上する。意外に交通量が多い。郡上八幡の町に寄ってみる。
「日本の名水100選」だか何だかに選ばれたとか言う宗祇水を手持ちの
2リットルポリタンクに詰める。この町は至る所に水路が有り、水飲み場
有る。それなりに有名な観光地ではあるが、あまり観光地化されていない様に
見受けられる。山間部にポコッと現れた様な静かで美しい町である。しかし
夏になると「郡上おどり」という夜を徹した祭が行われ、町はひとときの
熱狂に包まれると聞く。味気ない団地に住む僕には、全てが眩しい。


ひるがの高原へ。ここには太平洋に抜ける長良川日本海に抜ける
庄川という2大河川の分水嶺がある。公園の中にあるのだが、何とも
ショボイ。しかしここからあの大きな川の流れに繋がり、しかもそれぞれ
反対側の大海へと至るのだ。想えば深い。


日本海に抜け、海沿いの国道をひたすら行く。そう、ただ、
ひたすらに。僕は逃げ延びたいんだ。


富山、新潟のキャンプ場をそれぞれ利用する。夏休み、家族連れで
いっぱい。賑やかだな、楽しそうだな。夏の想い出は、特に子供時代の
夏の想い出は、精神の根幹に生涯刻み付けられる貴重なものだよ。大事に、
大切にしてね、お子様達。少なくともおにいさんはそう感じています。


体調が優れない。休憩の度に嘔吐している。旅の始まりは自分としても
強行軍かとも思えたが、やや無理がかさんだか。延々走り続ける辛さを
ここに見る。僕はもう若くは無いのか、それともはなから虚弱であった
だけなのか? 笑われてるよ、鳥海山に。そう、そこまで来たよ。



鳥海山 この場所は実はそれまで何度か通った事があるのだが、
今回初めてその全貌を見る。



僕は食い物にはあまり頓着しない。どこそこの店のなにがしが美味い、
等とのたまう御仁の気が知れない。ああ、どうぞ勝手にやってくれ。しかし、
そんな僕にも食ってみたいものが。イカ焼き。新潟から青森にかけての
日本海側はイカがよく採れるらしく、夏ともなればイカを軒先に干して
いるお店をよく見かけるものだ。そのイカに塩を軽く振って、ただ焼いた
だけのもの。


新潟と青森の県境近くのドラブインにて食うが、これが信じられない位
美味いのだ。体調不良を差し置いてでも食して損無しイカ焼きであるなあ。
1匹400円也。



イカ焼き、旨かった。



青森へ。五所川原岩木川の河原にて野宿。テントを設営後、暫く走った所に
あるコンビニへ。レジの女の子、地元の言葉で「おにぎりあっためますか?」


津軽美人の津軽弁。思わず恋する旅人ひとり。何故人は恋などしてしまうのか、
異性に惹かれるのか。上手くいった事もあったけれども、結局失恋の方が
多かった。今思う。誰かを喜ばせたかった為の優しさでは無かったのだ。
結局は自分の欲望を満たしたいが為の優しさでしか無かったのだ。落ち込む。
ここの所落ち込んでばかりである。僕はこんなにまで弱い男だったのかなあ?



五所川原にて


20時頃、テントの中で酒を呑んでいると、ドン、ドン、と音が。花火だ。
テントから出て見廻す。遠くの町で今、東北の短い夏が打ちあがっている。
短かろうが、ささやかであろうが、生命が燃える夏はここにある。


僕は逃げ延びてここまで来た。遠い、遠い町。旅に出るといつも思う。
何故自分はここへ来たのかと。白状しよう、僕は自らの居場所が
欲しかったのだ。自分の存在が無駄なものでは無いと確認したかったのだ。


でも、その度思い知らされる。所詮どう足掻いても自分は
「よそ者」でしか有り得ないのだと。


僕は今、路上で歌を歌っている。何の才能も無くて、自信も無くて、
コンプレックスの塊であるこの僕が、今、街角でギターを抱えて、
惨めな程の自己主張を、哀しい程の存在意義の模索を、自分は欠落して
いるのだという自己確認を、これでもかこれでもかと力を込めて、
こんなもんじゃないんだと自分を奮い立たせながら、たかが
1曲歌っただけで1日寿命が縮んだかの様な思い上がりに恍惚を覚えながら、
僕は今、路上で歌を歌ってるんだ。


同じ様にね、でも逃げる様にね、今回も旅に出たんだよ。救い様が無いねえ。
バカもんだねえ。えへへ。


蛍を見た。2匹。前年訪れた遠い南、石垣島の、それも11月の蛍を思い出した。

____________________


ええっとですね、以上は1998年、北海道を放浪していた頃の日記からの
部分的転載だったりするのですね。うわあ青臭い、うわあ恥ずかしい。
無駄に一所懸命だ。無駄にかっこつけてるぞ。似合わねーなー。


思いつきで今回から新カテゴリ作ります。題して「1998年北海道放浪」
あはは、お恥ずかしい。


実はこの旅については当日記にて随分前に断片的に書いていたのだけれども、
今回カテゴリとしてまとめてみようかいなと思ったのでございます。
無駄に青臭く、無駄に一所懸命、無駄に旅をして、無駄に人と出逢い、
無駄に・・・・・


不定期にて更新したく思っておりまする。仕事に雁字搦めになっている
2010年現在の、僕自身の為に。 はぁ、旅に出たいなぁ・・・・・


明日もいい日にしてみせますよ。ではまたね。