夕暮れのタクシー

きょうの釜ヶ崎・労働センター

「寒くなりましたねぇ」


「え?ああ、そうね、日も
短いから何かと困りますね。
コート、新しいの買おう
かな?」


「お客さん、あの若者
ご覧なさいよ、最近は
ああいうブルゾンの
厚手なのが多いみたいですよ。コートよりも」


「ああ、そうなの? よくわかんないや。何時も似たようなもんばっか
着てるからかなぁ・・・」


「わたしゃあねえ、昨年の今頃はリストラで職無しになってもうたんですわ。
ええほんっと参っちゃってねえ、あん時は。就職活動せにゃならんから
カチッとしたスーツとねえ、コートのちょっとしたのなんか買っちゃってね、
毎日それ着て出歩いてたんですわ、ほんまにね、それが普段着みたいな
もんでね」


「はぁ・・・就活ですかぁ。大変だなぁ・・・」


「それがね、その後こうやって今の会社に入れましてね、いやあ有り難い。
でもね、こんなカチッとした制服着てまっしゃろ? 毎日毎日ほんまにね。
その所為かその反動かしてね・・・普段着がテキトウになっちゃってね。
いっときはスーツが普段着みたいだったのにね。ああ、わたしゃね、以前は
こう見えて工場勤めでね。それがリストラでね。ほんと困っちゃってね・・・

 
ああそうだ、でね、その工場勤めの頃はね、仕事中は作業着ばっかなもん
だからね、休みの日の普段着は結構凝ったりしてたんですよ、ええ。スーツ
だって、なんも関係無いのに着てたりしたもんですわ。普段が作業着やからね」


「得てしてそんなもんなんでしょうね」


「ああ、でね、そのいまの普段着ですがね、こないだ新世界でええの
見つけたんですよ。ブルゾンでね、ウサギのマークがどーんと付いてるんだな。
定価が8千幾らはするかってのが5千幾らで出てたんだ。こりゃええもん
見つけたなって思ってね、咄嗟に買うてもうたんですわ、ハハハ。


まあ、買うたのが新世界ですわ。こりゃあお客さん、めっちゃ派手でっせ!!
でもモノは確かで、ええもんですわ。お客さん、ほんまね、安もん買うたら
だめですわ。ええもんを安く買う!これですわ。今度は昇り竜の絵のシャツ
買うたろ思てましてね、再就職したはええが、普段の見てくれがどんどん
怪しゅうなっとるわ。ハハハハハ!!仕事着が、こんなカチッとして
まっしゃろ・・・」


「そこ、曲がってください、労働センターが見えますよね?
ええ、あの高架の辺りで止まって下さい」


仕事にあぶれ、着るものもへったくれもない人々が集まっている所なんです、
そこは。


「お客さん、仕事出来るのって嬉しいですわ、ほんまに」


「まったくです。あ、領収書ちょうだいね」

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明日もいい日にしてみせますよ。おやすみなさいませ。