異臭

1995年・神戸市灘区

探していた写真を、先日実は
見つけていた。押入れの奥に隠れていた。


撮影して、現像して、
それ以来。やっと見つかる。


だから12年振り。やっと見つけた。
僕はあまりにも整理しなさ過ぎる。


1995年1月。神戸市灘区。
震災後、アルバイトをしていた
灘郵便局へと向かう道すがら。



使い捨てカメラにて撮影。不謹慎かと思いながらも、
カメラを持ち込み、数枚撮影していた。


当時、僕は郵政カブに跨って被災地を巡っていた。
しかし、行く家行く家潰れてばかりで、マトモに
郵便物を届ける事は事実上不可能となっていたっけ。


血の滲んだ包帯をアタマに巻いた女の子が、バケツに
水を汲んでいた姿は、きっと生涯忘れないだろう。
しかし間も無く僕は内勤に異動となった。当然だ、
配達は事実上不可能なのだから。


灘郵便局内は、異臭が漂っていた。風呂に入れない被災者達で
溢れ返っていた。異臭に吐きそうになった。しかし、それも
間も無く慣れた。異臭は、しかし此処では生きている証拠だ。
皆、生き延びた皆、異臭を漂わせている。屍の異臭では無く、
生き延びたからこその異臭。尊い。これこそが生きる進行形の証。

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長生きしてもせいぜい100年。僕のようなひ弱な人間なら、
もしかしたら60年も生きれば良い方か。50年でも贅沢かも。
僕の人生は、しかし60年生きるに値するのであろうか。


異臭を放っていたあの人達は、その後の時代を乗り越え
られたのであろうか。今は、仕合わせなのであろうか。


鼻の奥のずっと奥に、あの時の異臭が、未だこびりついている。

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今夜はうたた寝せず、早く寝ます。明日も忙しい。
明日もいい日にしてみせますよ。