この世で一番キレイなもの

この世で一番キレイなもの



「歌」って、一体なんなんだろう?


何故人は歌を歌うのであろう?


「歌う」というこの行為は、一体全体なんなのだろう?


この行為は、しかし時に無条件に人を、
人のこころを激しく揺さぶる。掻き立てる。
ざわめき、憤慨、安堵、ゆらめき・・・

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早川義夫は、1960年代後半、バンド「ジャックス」を
率いて、当時のフォーク、或いはグループサウンズ
どの枠にも収まらない、いや、収まりきれない音楽を
提示しようとしていた。


それはおそらく作為的なものではなく、その時まさに
そうしたいと、そう表現したいと単純に思ったから
自分達で出来うるだけの技術を用いて世に問うたものなのかと。


しかし、その問いかけは、あまりにも時期早尚であったようで、
一般的には、いや、当時のフォーク・ロックファンの間でさえも、
あまりまともな評価が得られなかったらしい。


自らの感情を削り取るかの如き訴えは、しかし当時の主流からは
些か外れてしまった異端のものであったのか。


「ジャックス」は経済的に行き詰まり、あえなく解散。
早川義夫はその後「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」という
地味ながら評価の高いソロ・アルバムを発表するが、23歳にして引退。


川崎で「早川書店」を開業。ただの本屋のおやじさんとして
70年代後半〜80年代の、ポピュラーミュージック界において、
ある意味不毛とも言えなくもない時代を横目に過ごす。


かつての音楽仲間とも縁を切り、市井に生きた。
言いたい事が言いにくくなってきた、いや、何を言えばいいのか
解らなくなって来た時代。歌も生まれまいに・・・

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どのようないきさつか、もうひとつよく解らないのであるが、
早川は1993年、書店を畳み、歌手として復活する。


2002年に出版されたエッセイ集「たましいの場所」には、
復活ライヴ直前に、昔の仲間からの手紙を読み返した旨が
書かれている。


「人生史上最強のライバル出現」と喜んでくれたE君、とは
遠藤賢司以外の誰でもない事は明らかだし、
「ぼくもまた歌をつくりたくなってきました・・・」と書いた
Gちゃんは、旧友である中川五郎の事に他ならない。


かつての仲間達との親交を取り戻したのだ。

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さて、このアルバム「この世で一番キレイなもの」は
1994年に発表されている。


1曲目はタイトル曲。


若き日の歌声とは随分変わっていた。
ジャックス時代の青臭さを感じさせる声、
例えば「ラブ・ゼネレーション」における切羽詰まった、
しかし真剣に聴こうとしなければ「プッ」と吹いてしまいそうな
若い声(実はそれが最大の魅力なのだけど)。


その声とはうって変わり、今やすっかりオジサン声に・・・
それって老醜?いや、とんでもない!


その渋みと深みは「ジャックス」時代とはまた違うエネルギーに
溢れている。若い頃には伝えきれなかった何かが、この復活の
第1曲に強烈に込められている。



♪なぜに僕は歌を歌うのだろう
 誰に何を伝えたいのだろう
 もっと強く生まれたかった
 しかたがないね これが僕だもの ♪


こうして言葉を載せただけでは解りにくいかもしれないけど、
この部分を聴いた時、僕は涙が出そうになった。


なんて弱々しいんだろう、そして嘘がないんだろう・・・

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ラブソングが多い。しかし、流行の、どうでもよさそうな
人達の歌もどきとはあまりにもかけ離れたほんとのラブソングだ。


♪お前が好きさ 可愛いと思うさ
 お前の裸を 汚したいのさ
 「お前はひな菊」


♪君のベッドと 僕のベッドを
 支えているのは ふたりの孤独
 君のあそこは 僕のものだよ
 いやらしさは 美しさ
「H」


♪もう君の声と可愛いしぐさも
 みんな僕の前から消えていくんだね

「雪」

この曲では、バイオリニストの川井郁子さんが参加している。
なんかとても色っぽい方なんですよね。


和光大学の第1期生であった早川と、同期の学生であった今の奥さんとの
思い出を歌った「赤色のワンピース」。

♪いつか僕が年老いてこの世を去るとき
 君が僕のそばにいて微笑んでくれたら
 この歌を君と一緒に口ずさんで死んでいこう


なんて優しくて、しかし切実な歌なんだろう。
時代を沢山通り過ぎて連れ添った人のために、こんな歌を
創って、歌える人なんて、この世にどれだけいるのかしら・・・



ラストは「いつか」。

♪心を立たせろ 虹を立たせろ
 言葉を立たせろ 音を立たせろ
 足りないのではなくて 何かが多いのだ

 愛を歌え 願いを歌え
 美しいものは人を黙らせる
 大空に映し出せ 


そうだね、足りないんじゃない。
何かが、何かが多すぎるんだ。
だから僕たちは・・・

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恋したあの人に、自爆覚悟で想いを伝えてどうにかしましょうか。
弱さを、情けなさを何の飾りも無く突きつけられると、
逆に勇気を与えて貰えて。


そうだよ、多すぎるんだ。何かが多すぎるんだ。


今日は時間がたっぷり取れたから今、まだ20時45分。
でもなんか眠い。だから寝る準備する。ジジイかよ・・・


明日もいい日にしてみせますよ。
ああ、今夜もワンパターンにもこう書けた。


募る想いをどうしたものか。簡単さ、寝なさい。