花

今朝、ある方から訃報を
受け取る。僕が数ヶ月前
まで担当していた、とある
ご高齢者のそれであった。


僕は既に担当ではなく
もう2ヶ月も職にすら
就いていない状態では
あるが、当時様々な手を尽くして関わった方であった事からか連絡を
頂いた。まだ荼毘には付されていないらしいが、死者となった今、
個人情報保護法も適用とはならない。その事を留意した上で恐らく
連絡して下さったのだろう。その方は身寄りも全く無いし。


上記の通り荼毘にも付されておらず、事件と事故両面の可能性がある
事から司法解剖が行なわれるらしいが、勿論僕にはその詳細なんて
解りもしない。ただ、遺体が発見された現場がどの辺りなのかは
知る事が出来たので出向く事とした。真冬の風が吹きすさぶ中、
僕は現場と思われる場所に立ち、持って来た線香と花を共に手向けた。
何故こんな場所なのかと普通ならば頭を捻ってしまいそうになる辺鄙な
場所であったが、僕にしてみればその方の状況を鑑みるに、もしかしたら
ありうるかもと思ってしまいたくなる場所であった。


暫くぼんやりと周りの風景を眺めていた。誰も来ないので地面に
腰掛けてぼんやりとしていた。哀しいだとか気の毒だ等と云う感情も
勿論あったが、僕はやれるだけの事はやったし、出来うる限りの後任への
引継ぎも行なっていたのだとの云い訳めいた感情の方がより大きかった
かもしれない。それは正直な所であった。当時の自分の立場を無視すれば
もしかしたら違う道もあったのかもしれなかっただけに。


世の中の大概の人々が想い返してくれないかもしれないであろう
孤独な人々を何人も見送ったが、そんな人々の為に出来る事は、
憶えている者が時々その人の事を想い出してあげる事くらいだろうか。
憶えている者がこの世にいる限りは全く誰も想い返して貰えない存在
ではない筈だから。僕は、果たして誰かの想い出の中にほんの時々でも
登場出来る存在になれるのだろうか。いや、なれないのなら、せめて
想い出してあげられる存在としての今現在を精一杯生きてみようではないか。


明日もいい日にしてみせますよ。ではまたね。