延長線上の呼吸

1999年・道道106号

1999年8月24日。
北海道の北部、道道109号。


通称「オロロンライン」にて。


ただひたすら真っ直ぐな道。
他には何にも無い。




かつては未舗装であったそうな。その頃走れたひとが羨ましい。
ジェベルに土埃を巻き上げさせて、僕も思う存分疾駆してみたかった。


道北には何も無いと、ひとは云う。しかしここには道があり、海がある。
ただひたすらに走り続ける旅人が、これらの他に、あと何を望むというのか。
何も無い、という事が此処にある。


叩き付ける風に負けじと、ただ走る。


ふと、道を外れ、砂浜に下りてみる。流木とゴミと鳥の死骸しかない。
太陽は雲を使って虹の輪を創り、海の向こうに聳える利尻岳は、ますます
その姿を大きく見せる。


何も無い、のか。本当に何も無い、のだろうか?
風圧に抗して、まだ走る。


時々、こころがからっぽになる。そうしたくて試みたきらいはある。
時々、昨夜の悪い夢を思い出す。僕は根本から後ろ向きな男なのか。


道はただそこに在り、ひとはただ道を往く。ただそれだけ。
やがて拾い、そして望み、まれに救われ、しかし朽ち、いずれ放擲する。


僕はただ漂えばいい。今はまだ彷徨えばいい。
ただ生き永らえ、ただ時は流れる。


二度とは戻れない。戻りたくも無いが。戻りたくなったら、僕は終わりだ。

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最北の都市にて幕営。市街地のスーパーへ。レジの太った中年女、
僕の手に触れまいと釣り銭を上から落とす。


排気ガスまみれの旅人の僕は汚いが、オマエは「穢い」よ。
所詮は大差ねえんだよ。



まだ8月だが、日没頃の気温は15℃。ここは北の果て稚内。明日は宗谷岬へ。



懐かしい、と書いてみても、実感としては、極めて「リアル」。
僕はまだまだあの頃の延長線上で呼吸をしていたりする。
いいんだか悪いんだか。


寝ます。明日もいい日にしてみせますよ。ではまた。